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地域芸能と歩む

今を生きる人々と育む地域芸能の未来 キックオフ・フォーラム

開催レポート

今を生きる人々と育む地域芸能の未来 キックオフ・フォーラム

概要

7月13日(土)、「今を生きる人々と育む地域芸能の未来」キックオフ・フォーラムを開催し、50名近くのみなさんにご参加いただきました。たくさんの方々のご協力を得て、大きな船が動き出しました。キックオフ・フォーラムは、その船出のセレモニー。どんな旅になるのか楽しみです。ご来場くださったみなさん、ありがとうございました。
キックオフ・フォーラムでは、どんな議論が交わされたのでしょうか。今回は、編集者でライターの川口美保さんに開催レポートをご執筆いただきました。

レポート

文/川口美保

photo:當麻妙photo:當麻妙

7月13日、『今を生きる人々と育む地域芸能の未来』キックオフ・フォーラムが沖縄県立図書館にて開催された。沖縄には豊かな芸能とそれを支える文化、歴史があり、祭りもそれぞれの地域に残っているが、しかし、高齢化や過疎化、また急激な都市化によって、存続が危ぶまれているものも少なくない。そういう状況の中で、このプロジェクトが『地域芸能と歩む』と題された意味とそれを実践していくために果たす役割をあらためて確認するための、プロジェクトスタートに相応しい内容のトークイベントとなった。

まず、第1部として壇上に登ったのは沖縄県立芸術大学音楽学部准教授で民俗芸能研究を行う呉屋淳子さんと、東北大学教授で生態人類学者である高倉浩樹さん。2人は「被災地からの問いかけ――変容するコミュニティと地域芸能の<未来>」というテーマで、東日本大震災の被災地の地域芸能の再生に関わる人々の取り組みを紹介。まず呉屋さんが、ひとつの地域だけで考えず、複数の地域を横断しながらこれからの地域芸能や地域社会のあり方を模索し、実践していくことの大切さを伝える。興味深かったのは、宮城県亘理郡山元町の神楽保存会の方々が沖縄の伊江島の人々と出会い、継承が途絶えないためにどうするか、それぞれの想いを交換し、共有することで、あらためて何をするべきかを自ら見いだし、県に対しての働きかけや行動につながっているということ。その地域や血縁でしか継げなかった文化や芸能をもっと柔軟に考えていくことが未来の可能性につながることを知れる話だった。

呉屋淳子(沖縄県立芸術大学准教授) photo:當麻妙呉屋淳子(沖縄県立芸術大学准教授) photo:當麻妙

さらに、高倉さんは、地域芸能が震災復興にどう貢献してきたのか、福島県いわき市下仁井田の三匹獅子舞と双葉町の相馬野馬追で踊られる流山踊りを例に挙げて説明。祭りが行われることによって、地域に多くの人々が集まってくること、また祭りという非日常の力によって日常が活性化し、それが地域復興につながることを述べる。しかしそれでは復興のために行われた数々のフェスやコンサートと変わりはないとも言える。しかし、祭りや地域芸能には「回帰的な時間」を思い出させる力があると高倉さんは言う。つまり、毎年、あるいは何年に一度、その祭りが行われることで、「まわってくる時間」を人々に刻む、というのだ。ただただ前に進む直線の時間と、命の循環や季節の巡りを感じさせるような時間との違いとも言えるかもしれない。震災後、仮設住宅での暮らしや様々な手続きなど、日々に追われるような生活を送ってきた被災地の方々にとって、この「まわってくる時間」を祭りによって体験することは、本来の暮らし、本来の自分を確かめることにつながる。さらにそれは、その土地の歴史や地域が持つアイデンティティをも自分の中に確かめることにもつながっていく。しかも、それを、唄い、踊る、という身体的な行動によって、自身の内側から思い出させることに大きな意味がある。その土地の暮らしや文化や歴史と結びついて生まれる唄や踊り。それはその地域との結びつきを自分の中にもう一度取り戻す力となり、それがその地域を活性化させていくことにつながるという事例は、地域芸能を考える上で、とても大切な要素だと思えた。

高倉浩樹(東北大学東北アジア研究センター教授) photo:當麻妙高倉浩樹(東北大学東北アジア研究センター教授) photo:當麻妙

そして第2部では、シンガーの松田美緒さんと映像人類学者の川瀬慈さんが壇上に登り、地域芸能にアーティストが出会うことで、どのように継承と創造をしていくのかをテーマに話が進められた。

松田さんは地域で人々によって歌い継がれてきた「うた」と出会い「記憶」を発掘する活動を続けているアーティストだが、そのひとつとして、徳島の祖谷という地域に残る民謡に心惹かれ、その地域を訪れ、そこに生きる歌い手たちに口承で歌を習っている。その時の様子をドキュメントしていったのが川瀬さんで、その映像作品『めばえる歌――民謡の伝承と創造』の抜粋映像を見ながら、話は進んでいった。その地域に生まれ育ったものではなく、他所から来た者が、地域の人々と深い交流を重ねながら、新しく民謡に命を吹き込んでいくことで、古くからある地域の民謡が再びいまの暮らしの中に響き渡っていく様子は、希望を感じさせた。それは、第1部で呉屋さんが伝えた「ひとつの地域だけで考えない」ということにもつながるのかもしれない。しかも、松田さんの歌を聴いた地元の方々が彼女の歌で歌い踊り、今度はその地域の小学生たちが民謡に乗せて自分の想いを言葉にして唄っていく姿も映し出され、歌が新しい息吹を吹き込まれることで、人の心から人の心へ届く瞬間を見せてもらったような気がする。当然、高齢化や少子化で失われていくもの、また、自然災害などによって失われていくものはある。しかし、その土地にその歌や踊りが生まれた必然性を感じる機会に触れることで、地域の人たちが奮い立たされ、自ら、もう一度、人と地域と芸能が結びつくことができる。その可能性を感じさせる映像だったと思う。

2人の話で印象に残ったのは、「どの国でもどの地域でも日常に歌うことが少なくなってきた」という言葉だったが、第一部の話にも出てきた「身体」ということがキーワードになるのではないだろうか。現代社会は、自らの身体で「体験」し、魂が震えるほど「感動」する、ということが圧倒的に少なくなっているように思う。身体を通して、心を通して、歌が生まれ、踊りが生まれるのだということを、身体的な行為として身体に刻む、心に刻む、という機会に触れることで、その地域の自然や暮らしや歴史、文化と、いま、ここに生きる人間が、もう一度、新しい関係性を編み上げていくことができるのではないか。

川瀬慈(国立民族学博物館准教授) photo:當麻妙川瀬慈(国立民族学博物館准教授) photo:當麻妙

松田美緒(音楽家) photo:當麻妙松田美緒(音楽家) photo:當麻妙

松田さんは、この『地域芸能と歩む』において、アーティスト・イン・レジデンス・プログラムを行うために、8月から、読谷村、奥武島、伊江島の3つの地域に残る「うた」の記憶を探すプロジェクトを開始するが、それは松田さん自身がそこに残る歌と出会っていくと同時に、地域の人たちが地域の歌ともう一度出会い直すきっかけになるだろうと思う。その時に、声を出す喜びや歌い踊る喜びを、形式ではなく、身体に呼び戻すチャンスになったらいいし、彼女の歌に触れることで、心動かされる体験をする子どもたちも多いだろうから、ここからまた歌が再創造されるだろうことを期待せずにはいられない。

また、フィールドワーク&対話プログラムとして、宮城県亘理郡山元町の神楽保存会の方々と読谷村・渡慶次地区の方々とのタウンミーティングも開催されるというから、ここでもまた新しく出会うことで生まれるものがあるだろうと思うと、心躍る。

そう、おそらく、この「心躍る」ということ。このことを、参加者たちがいかに実感し、実践していくかが、このプロジェクトにおいて、大きな意味を持ってくるのではないかと思った。

(左から)川瀬慈・松田美緒・高倉浩樹・呉屋淳子・向井大策 photo:當麻妙(左から)川瀬慈・松田美緒・高倉浩樹・呉屋淳子・向井大策 photo:當麻妙

インフォメーション

「今を生きる人々と育む地域芸能の未来」 キックオフ・フォーラム

パネリスト 川瀬慈(国立民族学博物館准教授)、松田美緒(音楽家)、高倉浩樹(東北大学東北アジア研究センター教授)、呉屋淳子(沖縄県立芸術大学准教授)

モデレーター 向井大策(沖縄県立芸術大学准教授)

日時 2019年7月13日(土) 14:00~17:00 開場13:30

会場 沖縄県立図書館 3階ホール