対話プログラム

伊江小×坂元小 子ども芸能交流会

概要

共に地域の芸能を学習している伊江村立伊江小学校(沖縄県)と山元町立坂元小学校(宮城県)は、一昨年からテレビ会議システムを使って交流を続けてきました。今年度も「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」を実施。伊江小学校の5年生と坂元小学校の4年生が画面を通して繋がりました。地域を超え、芸能を通じて沖縄と東北の子どもたちが交流した記録です。

●2021年2月1日(月)10時半〜 事前交流会(Zoomミーティング)
  テーマ:お互いの地域の芸能について紹介しよう。

●2021年2月4日(木)10時半〜 伊江小×坂元小 子ども芸能交流会(Zoomミーティング)
  坂元小学校 4年生の演舞「子ども神楽」
  伊江小学校 5年生の演舞「国頭さばくい」
  テーマ:それぞれの芸能を鑑賞して感じたことや思ったことを伝え合おう。
      地域の人や家族から「村踊り」や「神楽」を教えてもらった感想。
      それぞれの芸能から学んだことをこれからどのように活かしていきたいか。

遠くの町に住むともだちとつながる日

文/呉屋淳子

交流会の30分前。接続がうまくいくか、不安を感じながらZoomを立ち上げた。ノートパソコンの画面に子どもたちの様子が映る。2、3人の女の子がウェブカメラの前で変顔をしてみせたり、肩を組みながら踊ったりしている。思わず笑みがこぼれた。

2021年2月4日、宮城県南部の沿岸部、亘理郡の山元町立坂元小学校の4年生と、沖縄県北部にある離島の伊江村立伊江小学校の5年生による「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」が行われた。

2021年2月4日に実施した「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」(坂元小)2021年2月4日に実施した「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」(坂元小)

東北と沖縄、遠く離れたふたつの小学校の交流が始まったきっかけは、2018年にさかのぼる。この年の夏、山元町の中浜神楽保存会が伊江村を訪問し、伊江村民俗芸能保存会と交流事業を行った。山元町の坂元小学校も、伊江村の伊江小学校も、それぞれの学校で地域の芸能についての学習活動を行っている。両保存会のメンバーと伊江村にあるふたつの小学校の先生たちを招いて開催したタウンミーティングで、これからの民俗芸能の継承のあり方について語り合う中、学校で民俗芸能の学習に取り組んでいる子どもたちがどのようなことを考えたり、感じたりしているのかを聞いてみたいという意見が出た。

そこから生まれたのが、「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」だった。インターネットを活用した交流にしたらどうかというのが、当時の伊江村教育委員会の課長さんからの提案だった。

このように始まった「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」も、今年で3回目となる。素晴らしいことに、この交流会は毎年進化している。最初の開催は、2019年2月にテレビ電話会議システム(Skype)を使って実施することとなった。しかし、東北と沖縄の小さな小学校でインターネットを介して交流会をやってみようとのアイデアは良かったが、実際に準備を始めると、すぐに壁にぶつかった。

交流会にはパソコンやプロジェクター、大型スクリーン、ウェブカメラやスピーカーマイクなど、さまざまな機材を使いこなさなければならない。小学校のインターネット環境も大きな課題となった。伊江小学校はインターネット環境が整っていたおかげでなんとかなりそうだったが、機材の不足や技術的なサポートが必要だった。伊江小学校については、伊江村教育委員会と伊江小学校、そしてわれわれ沖縄県立芸大の教員が連携しながら交流会の準備を進めていった(「高大連携」ならず「小大連携」である)。

しかし、より深刻だったのは、沖縄から遠く離れた坂元小学校のサポートをどう行うかだった。坂元小学校の先生方も子どもたちのためなら、といろいろアイデアを出してくれたが、一番の壁がインターネット環境の整備だった。東日本大震災の被災地でもあった山元町で震災後の調査を行い、私と坂元小学校を繋いでくださった東北大学の高倉浩樹教授に、坂元小学校のサポーターとして必要な機材のセッティングをお願いした。小さなポケットWiFiで、なんとか東北と沖縄が繋がった。

2年目の交流会は、2020年2月13日に開催された。前年と異なった点は、両小学校でインターネットの接続に詳しい先生が、率先してこの交流会をサポートしてくれたことだ。坂元小学校は、体育館でのインターネットの接続が可能になっただけでなく、ウェブカメラとスピーカーマイクを学校の備品として購入していた。校長先生によれば、震災後に坂元小学校に寄せられた義援金で、交流会に必要な機材を揃えたとのことだった(なお、昨年度の実施レポートは、本プロジェクトのウェブサイトで公開している)。

学校が地域住民と協働しながらプロジェクトを行うためには、様々なアートマネジメントの知識やスキルも必要となる。学校が地域住民と協働しながらプロジェクトを行うためには、様々なアートマネジメントの知識やスキルも必要となる。

3年目となる今年は、2月4日に開催した。新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中がインターネットを介して「繋がる」ことが日常になったが、交流会ではさらなるレベルアップを目指して準備を行った。今回は技術的なサポートはさほど行わずに、それぞれの学校で準備と当日の運営を行う体制が整った。これは初年度から考えると、大きな進歩だった。

伊江小学校の方は、教室に備え付けられた電子黒板をインターネットに接続し、通常の授業の時間を活用して交流が行われた。さらに、双方の担任の先生が事前に打ち合わせを重ね、子ども芸能交流会の前に、Zoomでの事前の接続テストも兼ねて、プレ交流会(2月1日開催)を企画した。事前交流会の進行は、双方の学校の児童が担当し、学校紹介や地域紹介など各学校15分程度のプレゼンテーションを行った。

伊江小と坂元小 Zoomでつながった事前交流会伊江小と坂元小 Zoomでつながった事前交流会

そして、いよいよ2月4日の本番を迎えた。この日は沖縄県の緊急事態宣言が発令されていたため、私は伊江島へ渡ることができず、大学の研究室から伊江小学校と坂元小学校をZoomで繋ぎ、司会進行役として子どもたちを見守った。遠隔ならではの面白さもあった。それは、交流会の観覧を希望した保護者や教育委員会、そして大学関係者もZoomに接続し、「ギャラリー」として参加したことだ。交流会が始まる前には「ギャラリー」からの声援もあり、心温まる雰囲気の中で交流会が始まった。

子ども芸能交流会の本番スタート子ども芸能交流会の本番スタート

まずは、それぞれの学校が、地域の方から学んだ芸能を披露した。坂元小学校は、児童13名が白の袴に身を包み、太鼓と篠笛に合わせて舞手たちは軽やかなステップを踏む「子ども神楽」を、伊江小学校は4名の児童が芭蕉布の着物に帯はワラ縄を巻き、勇ましい動きの「国頭サバクイ」を披露した。そしてお互いの演舞について、それぞれが質問や感想を交換した。子どもたちは画面越しでも楽しそうに話をしたり、相手の話にじっと耳を傾けたりしていた。地域の芸能を学ぶ中で自分たちが感じたことを率直に伝え合う中で、遠くの町に暮らす子どもたちのあいだに共感が生まれていくのが感じられた。子どもたちは遠くの町を画面の向こう側にいるともだちを通して感じているように見えた。

坂元小学校4年生による「子ども神楽」の演舞坂元小学校4年生による「子ども神楽」の演舞

伊江小学校5年生による「国頭サバクイ」の演舞伊江小学校5年生による「国頭サバクイ」の演舞

坂元小学校では、「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」の後、2月13日に学習発表会が行われ、4年生の児童たちが堂々と「子ども神楽」を披露した。子どもたちの指導を行ってきた中浜神楽保存会と坂元神楽保存会の皆さんからは、これまでで一番の演舞だったとの報告を受けた。

しかし、同じ日の深夜、福島沖で大きな地震が発生した。坂元小学校のある山元町の坂元地区では、民家の多くに被害が出た。また、地震発生後から約4日間にわたって断水が続いた。坂元小学校も施設が損壊するという被害を受けただけでなく、2月中は給食の提供も止まった。伊江村からはすぐに、坂元小学校の子どもたちや先生、保存会の皆さんに何かできないかとの申し出があり、被災した坂元小学校のともだちに応援の手紙を送ることが決まった。

3年間の「伊江小×坂元小 子ども芸能交流会」を通して、私自身が実感したことがある。それは、子どもたちが地域の芸能を学校で学ぶことには、芸能の技そのものの継承以外に大きな意味があるのではないかということだ。子どもたちは芸能を学ぶこと――音楽を体で感じたり、記憶したり、「音楽する身体」として個人の身体へと内在化すること――を通じて、地域で芸能を育んできた人たちの思いや必死さを感じ取ったり、それを自分のこととして捉えたりするようになる。そして、その共通の基盤があればこそ、交流会を通して出会った遠くの町に暮らすともだちとも心を通わせられる。

学校において子どもたちが地域の芸能を学ぶということ。それは音楽や踊りを通じて、地域に根ざして暮らす人たちの心を理解できるようになることだ。その活動を実りあるものとするためには、現場に立つ教員だけでなく、教育委員会の行政的なサポートや地域住民との連携が欠かせない。そして、大学に所属する私たちもそれをサポートしていきたい。新型コロナウイルスが収束し、子どもたちが画面越しに出会った遠くの町に住むともだちと、いつかそれぞれの町や村で再会できる日を夢見ながら――。

著者プロフィール

呉屋淳子(ごや・じゅんこ)

沖縄県立芸術大学音楽学部准教授。専門は文化人類学と民俗芸能研究。民俗芸能を創造する「場」としての学校に着目しながら、朝鮮半島、南西諸島、近年は東北地方の学校で調査研究に従事している。著書に「『学校芸能』の民族誌」(森話社、2017年)、高倉浩樹・山口睦編『震災後の地域文化と被災地の民俗誌』(新泉社、2018年)がある。